コガネグモの水面への落下を避ける行動について
The behavior of the orb web spider, Argiope amoena, avoiding
to drop to the surface of the water
November.3,2005. M.Sekine
I observed how the orb web spider, Argiope amoena,
avoided to drop to the surface of the water on Aug.7, 2005 in Nakamura,
Kochi Prefecture, Japan. The Kumo Sumou, a spider-fighting match
of an annual traditional event in Nakamura, was held on this day. Two spiders
are placed on a stick where they battle each other. The spider with its
own silk dragline, often dropped from the stick to the surface of water
in a basin that placed about 60 centimeters under the stick.
I observed on 32 drops. On one occasion, a spider was submerged in water.
But on 31 occasions, when the spiders' legs touched the water, the spiders
climbed up to the stick again. It occurred 97% of the time. It suggests
that the orb web spider, Argiope amoena, notices the surface of the
water by its legs, and avoids falling into the water.
I am obliged to thank Dr. Makoto Yoshida for his long-term direction
and reading manuscript of the present paper.
要 約
しおり糸を曳いて水面近くまで降りてきたコガネグモの雌は、その脚が水面に触れるとしおり糸を手繰ってふたたび上に登っていく。コガネグモは,水に落ちることを避けていると考えられる。
序 論
コガネグモの雌2匹を横にした棒の上で戦わせるクモの喧嘩遊びは、鹿児島県の加治木町が有名であるが、高知県四万十市の中村でも古くから行われてきた。中村では「ひもし」という棒の下に水を張った入れ物を置く。これは、落ちたクモが水をいやがり、ふたたび棒へ登って闘うことを促すしかけである、と云われている。(斎藤,2004)
また、大ア(2000)はジョロウグモから牽引糸を採取する時に、小川の上で巻き取ると、クモは水の上に落ちるのがいやなためなのか、水面とほとんど一定の間隔を保ちながら糸を出す。(中略)クモは、どうも下が水面であることを認識しているらしく、地面と同じように逃げることはできないのである、と述べている。
クモは、水への落下を避けるのだろうか。
材料と方法
2005年8月7日、中村の一條神社境内で催された「全日本女郎ぐも相撲大会」に出場したコガネグモの雌10頭(体長18
mm〜25 mm)を使用した。なお,女郎ぐもはコガネグモの中村方言である。コガネグモの雌がしおり糸を曳いて水面近くまで降りてきたときにとる行動を10頭のクモについてそれぞれ1〜6回ずつ観察した。気温は32℃,天候は晴れであった。
結果と考察
10頭のクモ(1〜10)についての観察結果を表1に示す。
表1
10のクモは、クモの全身が水中に没してしまい、クモは糸を手繰って上に登ることができなかった。1〜9のクモは、しおり糸を曳いて水面近くまで降りてきて脚が水面に触れると例外なく直ちにしおり糸を手繰ってふたたび上に登った。すなわち、クモが水に落ちるのを避ける率は97%(31/32)であった。しおり糸を曳いて降りていくクモの姿勢から最初に水面に触れるクモの部位は第1脚となる。クモの第1脚のふ節と蹠節が水面に触れるとクモはしおり糸を手繰って上に登った。今回の観察結果から、コガネグモは脚(第1脚のふ節と蹠節)が水面に触れると水を認識し水に落ちるのを避け、しおり糸を手繰ってふたたび上に登ると考えられる。
中村のくも相撲は、「ひもし」という棒の下に水を張った入れ物を置き、降りてきたクモが水をいやがり、ふたたび棒へ登って闘うことを促すしかけを経験からあみだしてきたのだろう。一條神社の宮司、川村公彦氏によると、水を張るようになったのは約15年前からとのことである。
謝 辞
今回、この報告をまとめるにあたって吉田真博士から記載についてご助言をいただいた。ここに記し感謝いたします。
参考文献
大ア茂芳, 2000. クモの糸のミステリー. 186pp. 中公新書,東京.
斎藤慎一郎, 2004. クモの喧嘩遊びをめぐる民俗文化論. pp.337-354.
In: 上田哲行(編)トンボと自然観. 504pp. 京都大学学術出版会,京都.
関根幹夫, 2005. コガネグモの水面への落下を避ける行動について. くものいと.
38:1-3.
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