コガネグモとオオシロカネグモの水面への落下を避ける行動の比較
A comparison between the behavior of two species, Argiope
amoena and Leucauge magnifica, avoiding dropping into
the water
December.25,2005. M.Sekine
I observed how the orb web spider, Argiope amoena,
avoided dropping into the water on August 7, 2005 in Nakamura, Kochi Prefecture.
It was sunny and the temperature was 32℃. The female Argiope amoena
(with a length from 18 mm to 25 mm) with its own silk dragline climbed up
to avoid dropping into the water when the first legs of the spider touched
the surface of the water. It suggests that A.amoena notices the surface
of the water by its legs (Sekine, 2005).
Further, I observed how the orb web spider, Leucauge magnifica,
avoided dropping into the water on September 26, 2005 in Nara Prefecture.
The female L. magnifica (with a length from 12 mm to 15 mm) tended
to climb up too to avoid dropping into the water but without touching the
water. I observed on 54 occurrences. On one occasion, the spider was submerged
in water. Also, on 5 occasions when the legs of the spider touched the water
the spider climbed up to avoid dropping into the water. Finally in 48 instances,
the spider climbed up to avoid dropping into the water without touching
it. It occurred 88% of the time. In these cases, the distance between the
spider and the surface of the water was assumed to be about from 1cm to
5cm. Of course, all the spiders, L. magnifica, were weaving their
webs above streams. I observed this during daytime from 12:00 to 13:00 on
a sunny day. And the temperature was 27℃.
A. amoena inhabits meadow and shrub. L.magnifica weaves
its web above streams generally. So, perhaps L.magnifica knows instinctively
where the surface of the water is without touching it. Water reflects light.
I suppose that the spider, L.magnifica, is aware of the reflection
of the polarized light from the surface of the water. Anyway, the matter
needs further investigation.
I also suppose that the difference in the behavior between two species,
A. amoena and L.magnifica, can be partly explained as a reflection
of the difference in the habitat between the two species.
I wish to express my sincere thanks to Mr. Akihiko Yawata in Tokyo for
giving suggestions in the course of this study.
要 約
コガネグモは,その第1脚が水面に触れると水を認識し,しおり糸を手繰って上に登り水面への落下を避けるが,オオシロカネグモは,体が水面に触れる前にしおり糸を手繰って上に登り水面への落下を避ける傾向が見られた。オオシロカネグモは,水面に触れることなく遠方から水を認識していると推定される。これら2種のクモで見られた行動の違いは,それぞれのクモが生息する環境の違いの反映かもしれない。
序 論
高知県四万十市中村におけるコガネグモの雌の水面への落下を避ける行動の結果から,コガネグモはしおり糸を曳いて水面に降りてきたとき,その第1脚が水面に触れるとしおり糸を手繰って上に登り,水に落ちることを避けていることが示唆された(関根,
2005)。
ところで,コガネグモは草原に造網をする種であり,降雨で体が濡れることはあっても,網の下に流水や開水面があるわけではない。一方,渓流上に造網するクモにとって水面を認識し水面への落下を避ける行動は,クモが水に流されることや魚などの餌となることから免れるという意味を持つと考えられる。
草原に造網するコガネグモと渓流上に造網するオオシロカネグモでは,それぞれの生息環境を反映して,水面を認識し水面への落下を避ける行動に違いがあるのではないだろうか。
材料と方法
オオシロカネグモの雌(体長12 mm〜15 mm)を棒にとり,この棒からしおり糸を曳いて流水の水面近くまで降りてきたクモの行動を観察した。8頭のオオシロカネグモ(1〜8)について,それぞれ3〜9回ずつ合計54例を,2005年9月26日の12時〜13時に,奈良県生駒郡三郷町南畑で観察した。なお,8頭のオオシロカネグモは,全て渓流上に造網していたものである。気温は27℃,天候は晴れであった。
結果と考察
8頭のオオシロカネグモの雌(1〜8)についての観察結果を表1に示す。
表1 オオシロカネグモの観察結果
2のクモは,最初の6回はクモの体が水面に近づくと体が水面に触れずにしおり糸を手繰って上に登り,続く2回はクモの第1脚が水面に触れるとしおり糸を手繰って上に登ったが,最後は水中に没して上に登ることができなくなった。
他の7頭(1と3〜8)のクモは,水中に没することはなかった。オオシロカネグモは,しおり糸を曳きながらクモの体が水面に触れないように水面との距離を一定に保った後,しおり糸を手繰って上に登る様子が観察された。しおり糸を曳いたオオシロカネグモと水面との距離は,およそ1
cm〜5 cmであり,オオシロカネグモは水面に触れないように水面との距離を保っているように見えた。
表1に示すように,オオシロカネグモの雌が水面に触れることなくしおり糸を手繰って上に登った率は,88%(48/54)である。一方,表2に示すように,コガネグモの雌では第1脚が水面に触れた後にしおり糸を手繰って上に登る行動が例外なく観察された。(関根,2005)コガネグモは流水上に造網するクモでないゆえに,水面に触れるまで水の存在に気付かないということなのかもしれない。
表2 コガネグモの観察結果(関根,2005. くものいと, 38:1-3より)
コガネグモは,草原に進出したクモであり,オオシロカネグモは渓流上を好むクモである。おそらく,オオシロカネグモは下が開水面であるところを認識し渓流上を生息環境として選択していると推定される。どのようにして,オオシロカネグモは水面を認識するのだろうか? それは,水面から反射する偏光によるのかもしれない。これは今後の課題である。いずれにしても,以上の観察結果から,オオシロカネグモは,コガネグモとは違ってクモの体が水に触れなくても遠方から水面を認識し,水面への落下を避けていると推定される。一方,コガネグモは,体が水面に触れて初めて水に気付き,水を避けているのではないだろうか。これら2種のクモで見られた行動の違いは,それぞれのクモが生息する環境の違いの反映かもしれない。また,渓流上に造網するクモは,水面を遠方から認識し渓流上という生息環境を選択しているのかもしれない。今後の課題として,しおり糸を曳いて水面近くまで降りてきたクモの行動の観察を,生息環境の異なるいくつかの種で詳細に行うことが必要であろう。
謝 辞
今回,この研究を進めるにあたって,東京の八幡明彦氏から有益な助言を頂いたことに心から感謝の意を表します。
参考文献
関根幹夫,2005. コガネグモの水面への落下を避ける行動について. くものいと.
38:1-3.
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