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クモは稲の守り神

 カマキリ・カエル・クモなど、田んぼの虫が描かれた銅鐸がある。弥生人の稲の豊作を願う心であろう。クモは、脚をX字型にしている。これは、夏の田んぼで見られるナガコガネグモの表象と思われる。

クモの描かれた銅鐸

「こどものための鑑賞ガイド 神戸市立博物館」より

 さて、中国の吉祥の生きもの御三家は、コウモリ・カササギ・クモである。斎藤愼一郎は、呉の地方では、クモを「喜母」と書くように、クモは吉祥の虫であると熱く語っている。彼によれば、ラーメン丼によく描かれている「双喜文」は、二匹のクモであるという。「喜」の字を二つ並べてデザインしたこの字は、新郎新婦がならんで喜んでいる姿を文字にした、結婚を祝う図案で、本来は結婚式の時のみに使われたおめでたい字である。また斎藤は、ラーメン丼の双喜文の両脇の渦巻きの模様は、クモの糸であるともいう。「雷文」というこの四角い渦巻き模様は、自然界の驚異の象徴である雷をかたどった伝統の文様である。

 言うた者勝ちのような説であるが、最近また、面白い話が…。新海栄一と緒方清人は、『クモ・田んぼの生きものたち』で、稲の守り神として「不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)」を採り上げている。曰く:東大寺などいくつかの寺院のこの観音様には8本の手があり、羂索という投げ縄を持ち、光背にはクモの円網を備えている。稲の害虫を退治する益虫としてのクモは「稲の守り神」のように思われてきた。クモに救いを求めた当時の人々の願いが観音様の姿となって現れたものだろう。

 東大寺三月堂の本尊仏がクモの表象であったとは、僕は思いもよりませんでした…(笑)。

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