横浜のホンチ (2016年5月3日)
「大きいね、バラボンかい?」「ササボンも強い」「キンケツとアジロッケツの対決だな」「三角関係になるけど、雌を見せるか?」…、今日の”ホンチの喧嘩”に集まった出場者は、大人が43名、子どもは20名。ホンチとは横浜の方言で、木の葉の上を歩き回るネコハエトリというハエトリグモの一種。雄どうしを闘わせるホンチとそれに夢中となった少年たち。ホンチは、昭和30年代後半頃まで盛んに行われていた。少年たちのあいだには、バラボン(バラの木で採ったホンチ)が最も強く、ササボン(笹にいるホンチ)が二番、という言い伝えがあった。さらに少し説明をすると、クモの腹はビロードのようになっているわけだが、腹部が赤橙色で無地のものがキンケツ(金色の尻の意)、クリーム色の腹部背面に「キ」の字に似た黒斑のあるものがアジロッケツ(網代模様の尻の意)である。雄どうしが闘わない場合には、しばしば雌を見せることで、雄の戦闘意欲を掻き立てる。雌を見た雄は、闘うようになるから、いやぁー本当に良くネコハエトリの生態を観察しているのである。このあたりのことは、斎藤慎一郎の『少年の日の思い出-ホンチとババ-』
In: 川名 興・斎藤慎一郎『クモの合戦 虫の民俗誌(1985年)(未来社)』に詳しい。
5月3日の正午から、横浜の金沢自然公園 植物区 のんびり野原下で、ホンチ大会が開催されるという。主催の横浜ホンチ保存会のブログには、「ホンチ教室開催
大会当日 10時より 金沢自然公園 みずの谷付近 横浜ホンチ保存会会員がホンチ採集のお手伝いをします、採ったホンチで大会へ出場しましょう。」とある。金沢自然公園には、動物園もあるらしく、広い公園内で迷子になりそうだ。9時30分に京浜急行
金沢文庫駅改札付近集合という案内に従うのが確実だろう、という訳で、朝一番の新大阪発新幹線に乗車した。
横浜ホンチ保存会は、1983年5月3日に横浜に伝わるホンチ遊びの伝承を目的に設立されたホンチ好きの有志の会で、現在の会員数は33名。「今年の大会が朝日新聞の地元版に紹介され、数日前にホンチを目にしたものだから…」と、設立当時に参加していたが、今回30数年ぶりに顔を出したという方との会話が弾んだ。斎藤慎一郎の『クモ合戦の文化論-伝承遊びから自然科学へ
(1984年) (大日本ジュニア・ノンフィクション) 』を持参しておられ、この本は、横浜ホンチ保存会の設立翌年に出版されたものなので、大切に持っていると…金沢文庫駅から公園入口まで歩くこと30分余、結構遠いのだが…道中、楽しいお話を伺うことができた。園内では、笹の茂る所でクモをゲット、これはササボンだ、と思ったと同時に、クモの第1脚が取れてしまっていることに気付いた。手荒くゲットしたせいかなぁ、片剣なので、結局の所あっさりと負けた。ホンチの世界は、甘くはない。日当たりの良い所でマサキの垣根を探すのも良いと教えて頂いた。強い人は、数日前から採り、ハエを与え、準備をして大会に臨んでいるようである。
さて、大会は、12時から4時過ぎまで、大人の部と子どもの部の二箇所それぞれで二名の行司審判により、途中休憩もなく進行した。大人の部の準決勝で6分間も闘ったホンチは、決勝でも4分を越す大勝負をものにした。その見応えのある闘いっぷりには、万雷の拍手が巻き起こった。
ホンチ教室に集まった子どもたち、子どもの部には20名が参加。
行司がバルサ板の土俵にホンチを乗せる。試合は、金沢自然公園内の丸いテーブルを囲んで行われる。緑のポロシャツを着ているのは、横浜ホンチ保存会の
末崎 正 会長。
前脚(剣)を広げる二匹の"ホンチ"
組合う"ホンチ"
二匹の”ホンチ”が組合ったまま、ひっくり返った!
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